十代の頃の食玩や芸大生だったときのEP盤…私は昔からコレクター気質があるようで、何か好きになると夢中に集める癖がありました。そして、その欲望はシリーズをコンプリートすることで満たされたのです。
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昔はペプシのおまけのボトルキャップにとにかくハマって、飲まないコーラを箱買いしては、周りに配っていたことを思い出します。いつかそれが効率が悪いことを知ると、「盲牌」と言われた袋の上から触って中身を推測し、目当てのものを当てる技を駆使し、どの種類もコンプリートしたものです。
このときはまだ可愛いものでした。一個100円程度の飲み物におまけでついてきて、種類も多くて40種50種程度ですからね。
ところが、ヴィンテージの食器はカタログに載ってないようなものがあったり、するので、今となっては製品ラインの正確な数を割り出すことも困難です。
ペプシのボトルキャップにも、明らかに意図された色違いのものがシークレット的な扱いで入っていたり、ペプシマンのロゴマークがついてないなどのエラー品が高額で取引されたり、数が少ないものは希少価値を持っていましたが、このヴィンテージという代物はそれ以上に厄介な気がします。
なぜなら、当時の製品基準はかなり低く、今でこそ検品で弾かれそうなものが普通に店頭に並ぶのです。同じモデルでも、色の濃淡、ガラスの厚み、バックスタンプのエラー、それらの数少ない不良品は時により希少価値のあるものとしてコレクターを誘惑してきます。例えば、ヴィンテージのメイソンジャーに大きな泡が入っていればいるほど人気があります。
とにかくこの世界は深い沼のようですが、同時にとても奥が深いのです。ヴィンテージには、ただ古いからではなくて、良いものは良いと言える魅力があると思うのです。
そんなヴィンテージ、特にテーブルウェア(食器)の泥沼に私がハマったきっかけは一つの小さなマグカップとの出会いでした。
あれは5年前のある日、近くのスーパーへ車で買い物の帰り、偶然通りがかった駐車場に、テントが並び人だかりができていることに気がつきました。当時は全く知らなかったのですが、ここアメリカでは土日に学校の駐車場でフリマが開かれることがよくあります。
好奇心のまま赴くと、そこにはたくさん出店されており、明らかに業者の方と思われる製品をズラっと並べるているようなブースもあれば、家庭の不用品をダンボールにガサッと入れた雑な出店をしているところもありました。
別に欲しいものがあったわけではなかったのですが、初めての経験ということもあり、隅々見て回った時に、一つの小さなマグカップが気になりました。
その時は何が違うのかはっきりとはわからなかったのですが、よく目にするマグとはどこか違う印象を感じた。値段を尋ねると、一つ50セントだと言うので試しに買ってることに。かなりお買い得です。
こちらが件のカップなのですが、はコーヒーマグと言うよりも、スープを飲むため用のものらしく、背丈が低いです。『Soup’s on United』と赤くプリントが施されていました。そして、底にはPYREXとバックスタンプがあったので、以上の情報を参考に検索すると結果に同じものが何件も上がってきました。
どうやら、ユナイテッド航空の機内食のスープをサーブするためのもので、1960年代によく使用されていたというのです。そして、白く、セラミックに見えますが、ミルクガラスというれっきとしたガラス製品であること。そして、何よりも高額で取引されていることに驚きました。
何故こんなに高額なのか、と注意深く観察すると、このマグは非常に興味深い存在であることに気がつくのです。
陶器のマグカップとは明らかに違う質感。今の機内食はとても軽く安っぽい使い捨てしそうなプラスチックの食器ですが、これはかなりずっしりと重みを感じるもので、当時の事情は現在とかなり異なったこと。そもそも、機内食用の非売品のものがなぜ、50年も経て今ここにあるのか、誰かがくすねてきたのか。
この小さなマグにはストーリーが詰まっていて、フィルムメーカーにとってこんなに好奇心が揺さぶられるものはなく、その背後にあるものを考えるだけでも楽しかったのです。
今でこそ、多くの食器を所有していますが、最初のアイテムがこれでなかったら、ここまでのめり込むことはなかったのではないか、と思います。
それだけ、このマグは私にとって特別なもので、絶対に手放せない大事なものの一つです。