このブログはそもそもフィルムメーカーである私が映画の世界をより彩る小道具/プロダクションデザインとして人気の食器を掘り下げて、日常生活をより華やかにしよう、という目的で始めました。
肝心の映画関連の記事がまだ無かったので、実際に映画の世界でどのように使われているか取り上げます。
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映画で使われた食器をまとめてみました『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』
映画で使われた食器をまとめてみましたシリーズ第一弾の作品は『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』です。
なぜ、この映画を最初に取り上げたかというと、この作品は私がフィルムメーカーとなるきっかけとなった作品であるからに他なりません。
ただ一言、「とても美しい映画」であります。
素晴らしい作品なのですが、かなり過小評価されているように思います。意外と知らない方がいますので簡単にあらすじを説明していきましょう。
どんどん若くなる?おじいちゃんの姿で生まれたベンジャミンの数奇な人生
この物語は80歳のような姿で生まれ、歳をとるたびにどんどん若くなっていくブラッドピット演じるベンジャミン・バトン、彼とその周りの人たちの一生を描いたハイコンセプト/ヒューマンドラマの映画です。
時代は第一次世界大戦終了直後、ベンジャミンの出産から始まり、現代の2005年ニューオーリンズまで描かれるかなり時間軸の幅があるのですが、この時代、私の愛してやまないビンテージテーブルウェアがまさに現役の時です。作中の至る所でそれらを確認することができます。
ベンジャミンはまるで80歳のおじいさんの姿で出産されると、あまりの気味の悪さに父親に養護施設の前に置き去りにされますが、そこの管理をしている黒人夫妻に拾われ、大切に育てられていきます。
施設には大勢のおじいさん、おばあさんがいて、見た目もそのうちの一人のようなベンジャミンは同年代の子供たちと遊ぶことも叶わず、彼らを憂いのある表情で窓から見つめるだけなのです。
美しいプロダクションデザインに注目です
月日が経ち、ベンジャミン少年が外出途中にある男性に声をかけられて一緒に酒を飲みにいきます。この時のベンジャミンはおじいさんのような姿ではありますが、お酒が飲めるような歳ではまだありません。
その場所で提供されたグラスに注目してみましょう。
アンカーホッキングのブーピーグラスです。
フットの部分が特徴的なので知っている方はすぐわかるでしょう。
主に製造は1930-40年代に行われ、ディプレッション期の影響を強く受けたであろうそのデザインは、同じ年代のキャンドルウィックを連想させるつぶつぶが特徴的です。
ブーピーの方が後発なので、たまに「キャンドルウィックをパクった」という声をネットで検索中に見かけますが、ここアメリカでそのように解釈している人はあまりいません。
キャンドルウィックのクオリティと美しさに当時の多くのアメリカ企業に尊敬し、インスピーレーションを受けた結果であり、これはアンカーホッキング一社だけではありません。
一部の現代品にあるような明らかにキャンドルウィックの人気モデルを模倣した劣化版とは違い、これはこの時代を象徴するデザインの一つなのでしょう。
それだけインペリアルグラスのキャンドルウィックが凄かったということですね。
実は様々なバリエーションが存在します
ウォーターゴブレットやジュース/ワイングラスが一般的ですが、他にも用途に合わせて使い分けができるように様々なタイプがあります。
例えば、このように口が広く、背が低いシャーベットグラスもあります。
また、アンバーカラーのような色がついたものもあれば、サンドブラスターによるデザインが入ったものなどの変わり種もあります。
これだけ様々な種類があるということは人気の裏返しでもあります。
しかし、残念ながら日本ではあまり販売されてません。
なぜならアンカーホッキングでは耐熱ガラスブランドのファイヤーキングの方が圧倒的人気というのもあるのですが、このブーピーはどこのアンティークモールにも大抵置いてある代物で値段も$5程度と安価で手に入れやすく、輸入が大変なビンテージグラスの中ではあまり利益率が高くはありません。要するに儲からないんですね。
そのデザインの特性上、梱包も大変ですし、どうせならより人気があり、高値で売れるミルクグラスのアイテムを買い付けたいところでしょう。私もビジネスでやるなら、そうしていると思います。
おしゃれな夜のお供に
知名度が低いだけで、その魅力がうまく伝われば需要はあるのではないでしょうか。
ベンジャミン少年を飲みに誘ったこの紳士はトーマス・バトン、ベンジャミンの実の父親でありますが、この時点で少年はその事実を知る由もありません。
ただ、美しいプロダクションデザインが生み出すリッチな映画のトーンも一つの要因かもしれませんが、トーマスを演じるジェイソン・フレミングがこのブーピー片手に語るシーンに憧れを感じてしまう人も多いのではないのでしょうか。
この独特のデザインが与えた恩恵は一般家庭での人気だけではなく、撮影で退屈になりがちなワイングラスにプロダクションバリューを加えることができたことでしょう。
その小さなガラスの粒の連続が生み出す美しい光の芸術は、映像/写真のシーンでも違いを生み出してくれます。
ビンテージ食器ファンならずとも欲しいアイテムですね。数ドルでブラッドピットの気分を味わえるこのグラス、かなりオススメです。